皇居の真正面、東京駅丸の内北口から「荒川土手」行きというバスが出ている。都心から東京を縦断し、荒川を渡り、都県境に近いところまで行く、「210円で東京縦断の小旅行が楽しめる」路線である。とはいうものの、そうした使い方をするかたはあまりいないかも知れないが。

「街歩きの達人」写真家の田中チョートクさんが都バスの中で一番好きだというこの路線、その終点「荒川土手」に私の住まいはある。ここは言うなれば「東京の辺境」であり、もしもさしたる予備知識なしに東京駅からこのバスに乗り終点で降りて傍らの土手に上がったら「たいへんな所まで来てしまった」と起点とのあまりの景観の違いに呆然とするかも知れない。しかしここもまた東京23区内には違いないのである。ちなみにチョートクさんは、外国のお客さんが来たらこのバスコースを案内しようと思っている、とまで申されている。ありがたいことである(なにが?)

丸の内をスタートし、本好きのメッカ神田神保町、日本のカルチェラタン(て何?)御茶ノ水駅、日本の最高学府(か?)東大前、かつて文士村があったJR田端、そして都電荒川線をまたぎ荒川を越えてかつて「荒川の五色堤」があった(再生中)荒川土手に至るこのバスに愛称をつけるとすれば、さしずめ「東京縦断ニイイチマル号」といったところだろうか。

車窓からの見どころは多々あるが、バス好きの子どもの眼的にスぺクタルなのは(だったのは)やはりチョートクさんも申されているように荒川区小台あたりの狭い道の切り返しと、かつてあった「田端陸橋の180度ターン」だろうか。子どものころ荒川土手からこのバスに乗ると、必ず運転席の後ろに陣取り、この二つの見どころで運転手さんがモナコGPを走るF1レーサーのようにハンドル・シフトレバー・ペダルを目まぐるしく操作してコーナーをクリアする姿にうっとりしたものだ。今にして思えば、どうしてバスの運転手さんを目指さなかったのか不思議なくらいだ。その他には荒川区の狭い道を抜け、江北橋を渡るときいっきに視界が広がる開放感もよい。

まぁしかし、観光気分で乗るときにはいいですが、朝とかはバスはあまり乗りたくないですね。道路状況の影響をもろに受けますから。自宅周辺はどこの駅からも遠いので、かつては通勤にこのバスを使っていましたが、朝などずいぶんやきもきしたものです。それである日「あ!自転車があったじゃないか」と神の啓示を受けたと(笑)。

私、自転車は別に好きで乗っているわけじゃないんですよね。混んでいる公共交通機関の中でじっとしているのが嫌いですから、現実的には自転車しか選択肢がないんです。バイクはうるさくて嫌いだし、クルマも嫌いだし、かといって歩くのが好きでも都心の仕事場まで歩いて行くのは現実的ではないし。満員電車に乗るより、自転車に乗って一人で風に吹かれたり、樹木が多い静かな道をゆっくり走ったりするほうが精神的に楽ですからね(結局自転車が好きなんだろ)。

そんなわけで今はたまにしか乗らないこの「東京縦断ニイイチマル号」ですが、この先体が衰えて自転車で移動するのが難しくなったら、またこのバスに乗って神保町界隈まで行き古書店を回ってお気に入りの本を見つけてバールでグラスビールなど喉に流し込み、またこのバスに乗ってうとうとしながら帰ってくるのもいいな。それまで元気でいたいものです(笑)。

あ、画像はあえて載せませんので、各自想像してお楽しみください(いいかげんにしろ)。